園長だより令和8年7月号【人生を乗っけるだけの土台!】

人生を乗っけるだけの土台!
~神津カンナさんのエピソードに学ぶ~

  暑さが一段と増したような日々が続いていますが、子どもたちは相変わらず明るい笑顔でパワフルに過ごしています。このエネルギーどこから湧いてくるのだろうと羨ましく思うこともあります。彼らが巣立っていく世に中がどんな社会になっているのだろうと余計な心配をすることもありますが、一人一人が自分らしさを発揮しながら生きていけるような社会になってほしいと祈るばかりです。


ふと、以前拝聴したことのある執筆家・コメンテーターとして活躍している、神津カンナさんの講演を思い出しました。彼女が小学校一年生の時の算数の時間の話でした。その中で、「23-8。さあ、ちょっと難しくなりましたよ。3から8は引けませんね。だから、10の位から10借りてきます。そして、13から8を引きます。今度は10の位を見てみましょう。最初は20でしたけど、10貸してしまったので、残りは10。ですから答えは15になります。分かりましたか?」すると、彼女が手を挙げたのです。「あのー。借りた10はいつ返すんですか?借りたものは返さなきゃいけないと思うんですけどー。」「うーん。でもこれは算数だからいいの。」「あのー。」それなら借りてくるんじゃなくて、貰ってくるほうがいいと思うな。貰ったものなら返さなくていいから。」先生は、またまた笑って言った。「そうね。貰ってくるようにしましょう。」なんと微笑ましい光景でしょうか。子どもたちに接する際の大切なものが内包されているような気がします。このエピソードを紹介した後、彼女は「今どきの子は、塾や幼稚園・保育園で『社会』を早くから体験しているのだろうが、『小学校・幼稚園・保育園』等は、やはり異なる価値観や見方に接する大切な広場である。そこでぶつかったり、びっくりしたりして少しずつ世界が広がる。いわば人生の土台。人生を乗っけるだけの土台作りこそ、幼稚園・保育園や小学校の役目である。」という言葉で締めくくりました。


実は、私も似たような経験をしました。殆ど高学年を担任していた私は、算数の教科書の執筆・編集もしていた広島時代、全国でも珍しい教科担任制の学校でしたので算数の授業のみを複数クラスで授業していましたが、当時の校長さんに何とかお願いして、初めて念願の一年生を担任することができました。入門期の算数の時間でした。黒板に大きな蓮の葉を2枚貼り、一方の蓮の葉にカエルを3匹、もう一方に4匹乗せて「合わせて何匹でしょう。」と問いました。すると、殆どの子どもは教えてもいないのに「3足す4は7。」と答えたのです。その時、普段はあまり発表することのなかったおとなしいH君が手を挙げたのです。そして、「7にならないかも知れません。」と言ったのです。その瞬間笑い声が起こりましたが、彼は構わずに「先生、そのカエルは水に潜らないんですか。水に潜ったら7になりません。潜っているカエルが上がってきたら7になりません。」と続けたのです。私は、そんなユニークな発想をする子は大好きですので、大袈裟に褒めました。彼の発言をきっかけに様々な意見が出て、授業が普段以上に盛り上がり、深まったのは言うまでもありません。それがどう影響したかどうかは分かりませんが、彼は東京の某有名国立大学の教授として活躍しています。今でも時折近況報告をしてくれます。


目の前の子どもたちの屈託もない笑顔を見ながら、これからどんな大人に成長していくのだろうと想像しています。そして、「人生を乗っけるだけの土台作り」の一端を担った取組をしているのだろうかと自問自答することもありますが、心の片隅のどこかに残ってくれたらという思いで日々向き合っています。ひょっとしたら、子どもたちは保育園で過ごした記憶は殆ど忘れてしまい、思い出すことすらないのかも分かりませんが、ふとした瞬間に思い出すこともあるのではないかいう微かな思いもあります。改めて、子どもたちや保護者の方々との出会えたことに対し心から感謝しています。

園長 中村 洋志