園長だより令和7年6月号【命輝く季節に寄せて!】

命輝く季節に寄せて!
~命の長さではなく、命の重さを受け止める~

                            園長 中村 洋志
睦月は暖かい空気の中で新緑が目に映え、動植物をはじめあらゆるものの躍動を感じることのできる「命輝く季節」です。子どもたちは今日も自分の命を精一杯生きています。その姿は誠に清々しく、私たち大人に常に元気をもたらしてくれます。


先日テレビ画面から流れてきた「命の長さではなく、命の重さを受け止める」という言葉にハッとしました。私は、1年9か月前に14歳の孫を「小児がん」で亡くしました。1年3か月の闘病生活でしたが、私にとっては出来過ぎた孫でした。後日一段落してから分かったことですが、彼は闘病生活の詳細をほぼ毎日、パソコンとノート(自筆)に遺書を書き綴っていました。最期まで明るく振る舞っていましたが、それを読み返しながら苦しみながらも前向きに生きた彼の思いを受け止め、深く考える機会となりました。どんな思いで書いていたのだろうと考えると今も胸が痛みますが、「生きることの意味」「命の重さ」等を考える機会になればと思い、誠に個人的な話ですがそのごく一部を紹介します。


【クラスのみんなへ】最後はあまり会話できなかったけど、今までありがとう!まさか自分が癌になるとは思わなかった。個別にもメッセージ書いてるけど、時間がなくて書けなかった人に対して別に友達だと思っていたわけじゃないからね(笑)。やっぱこんな病気で死にたくはなかったな。やりたいこともやれなかったし、右足を切断して、その分これから報われると思って頑張ったのに、死ぬのはやっぱり辛い。何より、中途半端な生き方をしてたのが悔しい。もっと色んなことに全力で取り組みたかった。みんなには、一杯感謝している。本当にありがとう。だから僕のせいで悲しまないで僕で笑ってくれ。遺書で笑かしたやろうと思ったけど、どうやって笑わせればいいかわかんないや(笑)。最後に、僕の分まで今生きている人生を無駄にしないで、最後まで頑張って欲しい。あと、僕を忘れないでくれ(切笑)。気持ちの整理とかもついていないけど、これがみんなへの最期のメッセージ。涙目になって書いたんだ許してくれ。


【ママへ】入院して時からずっと付き添ってくれてありがとう。病気が治ったら絶対親子孝行をするって決めていたけど、ごめんなさい。本当に付き添ってくれて安心したし、元気も出て頑張れた。手術の説明を受けた日、一緒に泣いてくれてありがとう。面と向かって言うことは出来なかったけど、本当に感謝している。もちろん入院する前のことも感謝しているよ。中学受験のことなんて、自分一人じゃ合格出来なかったと思っている。ママは自分のことを責める必要なんて一切無いからね。僕がママに一番伝えたかったことは、本当にたった一つ、今の僕ならママの子供でよかったと心の底から言える。付き添いで面倒見られなかったY(兄)T(弟)の世話をしっかりしてあげて。今までありがとう。


亡くなる3~4日前、誕生日が近い彼に「15歳の誕生日には何が欲しい」と聞いたら「もっと大きな机が欲しい」との返答でした。一緒に買いに行く約束をしたばかりでしたので、信じられない気持ちでした。今は彼の遺書を何度も読み返しながら、ひょっとしたら私よりも濃い人生を送ってきたのかもと考えています。私みたいな者とも親しく交流してくださった尊敬してやまない世界的に著名な元聖路加国際病院故日野原重明名誉理事長は、お会いする度に「長生きすることに意味があるのではなく、どれだけ深く生きるかが大切なんだよ」と、話してくださいました、改めて思い出しています。まさしく「命の重さ」「命の尊さ」の話です。

時間はみんなに平等という訳ではありません。目の前の子どもたちが、今という時間を精一杯生きて「今の自分を輝かせて欲しい」と心の底から願っています。私たち大人は、子どもたちに対して、あらゆる場面で「命の重さ」「命の尊さ」を伝えていく必要があります。どの子も、その「かけがえのない限られた命の時間」ができるだけ長く有効に使い、健やかに成長していくことを祈念してやみません。